鞭聲肅肅夜過河 暁見千兵擁大牙 |
遺恨十年磨一剣 流星光低逸長蛇 |
(読み) |
鞭聲 肅肅 夜 河を過(わた)る。暁に見る千兵の大牙を擁す |
るを。遺恨なり十年 一剣を磨き、流星光低 長蛇を逸す。 |
(大意) |
(上杉謙信の軍は)鞭の音もたてないように静かに、夜に乗じて川を渡っ |
た。明け方(武田信玄方は上杉の)数千の大軍が大将の旗を立てて、突然 |
面前に現れたのを見て大いに驚いた。しかし誠に残念なことには、この十数年来 |
一剣を磨きに磨いてきたのに、打ち下ろす刃(やいば)がキラッと光る一瞬の間 |
に、あの憎い謙信を打ちもらしてしまった。 |
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*肅肅=静に響くさま *大牙=天子や将軍の本陣に立てる旗 |
*流星光低=白刃がきらめいた次の瞬間に、流星は剣光のきらめきのたとえ |
*逸長蛇=大物をのがす。 |
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【出典】不識庵(ふしきあん)機山(きざん)を撃つの図に題す (頼山陽) |
*不識庵=上杉謙信の号 *機山=武田信玄の号 |
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文化9年(1812)作者33歳のとき、川中島(千曲川の砂州)の合戦の様子を描い |
た画に記した作品。歴史を詠じた詩の中の傑作と称され、詩吟や剣舞でも馴染 |
み深い名作である。 |