豫章翻風白日動 鯨魚跋浪滄溟開 且脱剣佩休徘徊 |
西得諸侯棹錦水 欲向何門跋珠履 仲宣楼頭春色深 |
青眼高歌望吾子 眼中之人吾老矣 |
【読み】 |
豫章(よしょう)は風に翻(ひるがえ)って白日動き、鯨魚(けいぎょ)は浪を跋(ふ) |
んで滄溟(そうめい)開く。且く剣佩(けんぱい)を脱して徘徊するを休(や)めよ。 |
西のかた諸侯を得んとして錦水に棹さす。何れの門に向ってか珠履(しゅり)を |
跋(ふ)まんと欲する。仲宣(ちゅうせん)の楼頭(ろうとう)春色深し。青眼高歌し |
て吾子(ごし)を望む。眼中の人吾は老いたり。 |
【意味】 |
君の才能の壮大さはあの予章の木が風になびくときのように太陽をもゆるがし、 |
鯨が波を蹴たてるように大海原をも二つに切り開くほどだ。まあ剣や佩玉を |
といて、歩きまわるのをやめたまえ。君はこれから、西方の諸侯に仕えようとして |
錦水に舟を浮かべるのだが、どこの門口で真珠の履(くつ)をはこうというのだね。 |
この仲宣の楼のあたり、春の色は今まさに深まっている。親しみのこもった眼ざ |
しで、高らかに歌いながら君の姿を見やれば、いつも吾が目の中に浮かぶ人、 |
そして今、吾が目の前にいる君よ、ぼくももう年をとったなあ。 |
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*豫章…巨大な楠の木、王郎の奇才にたとえる。 *滄溟…大海 |
*跋珠履…諸侯に仕え、上客として待遇されること。 *仲宣楼…荊州にあった |
楼。魏の詩人王粲(おうさん)がこの楼に登って「登楼の賦」を作ったため仲宣楼 |
とよばれた。仲宣は王粲の子(あざな)。 *吾子…あなた |
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【出典】短歌行贈王郎司直 (杜甫・盛唐)
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